解決事例(2)

実力行使に対して法的手段をもって相続問題を解決した事例

事案の概要

依頼者の父が死亡し、相続人は母、依頼者、兄Aであったが、父は全財産を母に相続させるという遺言書を作成していた。これを知った兄Aは、母の認知症が進行していることを奇貨として母を自己の支配下に置いてしまえば将来母が死亡した場合両親の全財産が独り占めにできると考え、母を実家から連れ出して兄A宅に囲い込み、依頼者には一切母に会わせないようにした。兄Aは、母を自己の支配下に置いた後、弁護士Xに相談し、母と兄Aとの間で委任契約及び任意後見契約公正証書を作成させ、かつ、母に「全財産を兄Aに相続させる。」という遺言公正証書を作成させた。

依頼者は、弁護士Yに兄Aとの遺産分割交渉を依頼し、弁護士Yは母と兄Aに遺留分減殺請求書を送るとともに弁護士Xと遺産分割交渉を試みたが、埒が明かず徒に月日が経過した。この間、兄Aは、父名義の預貯金の殆どを解約し、これを自己の用途に費消したり自分の預貯金とするとともに、母を連れて実家に引っ越し、事実上実家の土地・建物を自分のものとした。

解決ストーリー

依頼者は、実家に軟禁状態にある母が兄Aに虐待されているのではないかと大変心配になり、母を助けて貰いたいと私に依頼してきました。私は、母を被告として遺留分減殺請求訴訟を提起するとともに、裁判外で弁護士Xと交渉を試みました。

そのような最中、母が自力で実家から脱出し、依頼者宅に逃げ込んできました。私は、母が兄Aに奪還されるのを阻止するため、依頼者の妻の両親や警察の協力を得て厳戒態勢をとるとともに(実際に兄Aが依頼者宅に押しかけてきたので110番通報をしました。)、母から事情聴取したところ、委任契約及び任意後見契約公正証書や遺言公正証書が母の意に反して作成されたものであることが判明したので、母とともに公証役場に行き、公証人の認証を得て契約解除通知を兄Aに送るとともに、遺言を撤回する旨の公正証書を作成しました。

次いで、私は、遺留分減殺請求訴訟を取り下げるとともに依頼者の代理人を辞任し、新たに母の代理人となって、兄AとX弁護士に対し父名義の預貯金に相当する金員の返還(預託金の返還)を内容証明郵便にて請求したところ、兄Aからは何の回答もありませんでしたが、X弁護士からは「兄Aの代理人を辞任した。」との回答がありました。

兄Aは依然実家を占拠したままでしたので、私は、母の代理人として兄Aを被告として預託金返還請求訴訟と実家の土地・建物の明渡請求訴訟を提起するとともに、家庭裁判所に対し母の後見開始の申立をしました。Z弁護士が母の後見人に選任されましたので、私は、Z弁護士とともに預託金返還請求訴訟と土地・建物の明渡請求訴訟を継続し、その結果、裁判上の和解が成立して兄Aから預託金の一部が返還され、また、兄Aは実家の土地・建物を明け渡しましたので、今度は依頼者が母を連れて実家に引っ越しました。

弁護士からのコメント

相続を巡って紛争が生ずる場合として考えられものについては解決事例(1)で述べましたが、本件は相手方の実力行使に対して法的手段でもって対処した事案です。すなわち、父が全財産を母に相続させるという遺言書を作成していたを奇貨として兄Aが母を自己の支配下に置くという実力行使を行って事実上父の全財産を独り占めにしたが、依頼者が法的手段を取ったことにより母の元に父の財産を返還させることに成功した事案です。

但し、将来母が死亡した場合は再び相続争いになることが予想されますが、母にはZ弁護士が後見人についている上、裁判上の和解により依頼者が母の監護者と指定され実家で母と一緒に暮らし母の介護をすることとなったので、将来の母の相続に関しては依頼者に有利にことが運ぶことは間違いないでしょう。