相続ケーススタディ

CASE 01

父の死亡後、遺産分けの話を姉たちとしていたところ、姉の一人が、姉に全遺産を遺すという父の自筆の遺言書があると言って、遺言書の検認を家裁に求めました。ところが、遺言には、不備があって、私は遺言は無効と思いますし、姉一人が遺産を独占することには納得がいきません。私は、どのようにしたらよいでしょうか。

遺言の不備とはどのようなものでしょう。たとえば、次の遺言で効力があるものはどれでしょうか。 

(1)印鑑でなく拇印を押した自筆証書遺言 
(2)日付が平成22年1月吉日となっている自筆証書遺言 
(3)パソコンにデータとして残っている遺言 
(4)認知症で判断能力の劣った父が書いた全遺産を娘の一人に相続させるとの遺言 

自筆証書遺言として有効なのは(1)のみです。
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付及び氏名を自署し、押印して作成します。
押印は拇印でもかまいません。

(2)日付は確定した日時でなくてはいけません。
(3)自筆証書遺言は、全文が自筆でなくてはなりません。
(4)遺言の意味を分っていないで書かれた遺言は遺言能力を欠き無効です。

(2)(3)の形式上の瑕疵は、相手も争えないので、遺言の無効は認められやすいでしょう。あなたは、遺産分けを遺言どおりに行いたくないというのですから、遺産分割調停を家裁に申立て、その中で、遺言の無効を主張して、遺言に依らない遺産分けを主張すべきです。

(4)は深刻な争いになるでしょう。遺言能力の有無は、実質的な争いになりますから、遺言能力について、遺言が書かれた時点での父の意思能力を疑う証拠を探さなくてはなりません。父が、当時かかっていた病院のカルテなどを取り寄せ、そのころ、認知症の診断等がされていたか確認する必要があります。遺言の無効は、通常話し合いで解決できる場合は少ないでしょうから、調停で争うか、地裁に遺言無効確認の訴えを起こす必要があります。立証が可能か否かを判断して裁判に臨みますが、遺言能力を否定する証拠が乏しいときには、とりあえず遺言の効力は争わず、遺言はあるものとして、遺留分減殺請求をしていくという方法もあります。